⼀覧にもどる
2024.11.21
#コラボレーション

Interviews Vol.06 ミロコマチコさん

ミロコマチコさん
手あとのいびつさから伝わる、猫への深い愛情

2024年11月1日(金)からSTUDIO 894ギャラリーでスタートしたミロコマチコ展「ねこ そら もよう」は、画家であり、絵本作家であるミロコマチコさんが描いた猫たちが会場を彩る貴重な展覧会です。なかでも、今回の展覧会でお披露目となった3体の猫の立体作品や絵付けした磁器製タイルは、ミロコさんの人生に影響を与えた猫たちへの深い愛情と、新たな挑戦となったものづくりへの思いが伝わってきます。

自ら粘土をこねて立体の表現を模索

――ミロコマチコ展「ねこ そら もよう」でお披露目された猫の立体作品は、中外陶園との初めてのコラボレーションです。オファーを受けたときの心境をお聞かせください。

ミロコさん(以下、ミロコ) 一からものづくりに携わる機会はあまりないので、最初は驚きました。でも、陶磁器でものを作ることに興味があり、やってみたいとすぐお返事しました。

――このサイズの立体作品を作るのは初めてだとお聞きしましたが、どのように進めていったのですか?

ミロコ 私の絵を立体化するにはどうしたらいいかを考えたとき、自分で粘土をこねて表現した方が、多少のいびつさや不格好さがあっても面白いかもしれないと思いました。実際に作ってみたら、意外と可愛らしくできたので、それをサンプルとして中外陶園に送りました。

――そのサンプルを元に立体作品の型が作られたのですね。原型師の方は、サンプルを介して、ミロコさんが表現したいことはもちろん、迷われた部分まで分かったとお聞きしました。

ミロコ 恥ずかしいですね(笑)。実はサンプルの頭には、前だけではなく、後ろにも顔があったんです。作っていく過程で、どうしても耳が思ったような表現にならなくて…。たまたま頭を前後逆にしてみたら、そちらの方がいい形だったので、後ろの顔を消さずに中外陶園に送ってしまったんです。最初の試作品には、後ろに残っていた顔も忠実に再現されていて…(笑)。そこは修正をお願いしました。

形や色、素材にこだわった個性豊かな猫たち

―ミロコさんは愛猫家としても知られていますが、作品にご自身の愛猫たちが反映されることはありますか?

ミロコ それはあります、特に猫は。最初に「おぼろづき」を作ろうと思ったのも、わが家の猫がハチワレだったからです。当時、5匹いた猫たちの柄を混ぜ合わせてサンプルを作ったのですが、最終的に皆さんから愛される猫になってほしかったので、オーソドックスなハチワレに寄せました。

――何かもの言いたげな猫の表情も印象的ですが、ちょこんと座った姿にも癒されますね。

ミロコ フォルムもすごく迷いました。猫らしい仕草やポーズはたくさんあるので。ただ置物としての存在感が欲しかったので、最終的に座った姿に落ち着きました。

――驚いたのは3体とも首が外れるんですね。とてもユニークな試みですが、どうしてこのような形になったのでしょうか?

ミロコ 絵ではできない表現がしたかったことと、手に取った人それぞれの形になればいいなと思ったからです。でも、商品化するには難しさもあったようで、長さや引っ掛かり具合が異なる試作品をいろいろ作ってもらい、その中で調整していきました。

――そのハチワレのほか、今回は三毛猫の「ゆうやけ」と茶トラ猫の「からっかぜ」も作られました。どれも個性的で可愛いですね。

ミロコ 「おぼろづき」で基本のフォルムを決めて、その後、3匹が並んだときのバランスを見て、「ゆうやけ」と「からっかぜ」の色や柄を入れていきました。そのうち1体は陶器の素材のよさを生かしたものが作りたかったので、「からっかぜ」は赤土の生地の上に、ほかの2体とは異なる釉薬をかけています。釉薬のかかり具合や窯で焼く位置によって、微妙に個体差が生まれるので面白いと思います。今、気づいたのですが、「おぼろづき」と「ゆうやけ」の顔と体を入れ替えても可愛いですね(笑)。

ものづくりの基本は“自分が欲しいと思うもの”

――展覧会の会場では、絵付けタイルの作品も飾られていました。絵付けは初めての試みですか?

ミロコ 昔、少しだけ挑戦したことがあるのですが、改めて、今回描いてみたら、書道のようで楽しかったですね。本来は、焼成前後の色の違いや筆跡の目立ち具合も予測して描くべきなのでしょうが、これはこれで表現のひとつとして面白いと思いました。

――呉須一色かと思いきや、目に金色が使われていたり。もう少しカラフルな1点ものの絵付けタイルもありますね。

ミロコ 私は“自分の欲しいもの”を作ることが多いんです。今回の絵付けタイルの中には、これをトイレの壁にたくさん貼ったら可愛いだろうなと、妄想しながら描いたものもあります(笑)。

――普段の創作活動とはまた違った楽しさがあったんですね。

ミロコ そうですね。私は慣れていないことに挑戦するのも好きですし、職人の皆さんのそばで絵付けできたことも楽しかったです。私が少し質問すると、皆さんがたくさん答えてくれて…。ものづくりへの熱い思いが伝わってきました。お昼は一緒にお弁当を食べたりして、中外陶園の一員になったような気持ちでした(笑)。

奄美大島の自然や暮らしが創作活動に変化をもたらす

――2019年に東京から奄美大島に拠点を移しましたが、作品に変化はありますか?

ミロコ 描くものはすごく変わりました。以前は動物や植物を描いていましたが、今は身近に感じる奄美大島の自然を目に見えない架空の生きものとして表現したいと思っています。今回の3匹の猫たちの名前も、私の今の気持ちとリンクさせたくて、自然現象から名づけました。

――今回の3匹の猫たちが皆さんにとってどんな存在になってほしいですか?

皆さんの日々の暮らしの中で寄り添ってくれる存在として、本物の猫を撫でるようにたくさん触って可愛がってくれたら嬉しいですね。

――今後、挑戦してみたいことはありますか?

ミロコ 猫の立体作品に関しては、フォルムはこのままで、色や素材が異なる猫が作れたら嬉しいですね。たとえば、ブルーやピンクといった、実際には存在しないような柄や色の猫があってもいいなと思っています。あとは蚊やり器が作りたいです(笑)。当初は、猫の置物と蚊やり器を同時進行で考えていたのですが、まずはひとつのことに集中しようと猫の置物を優先したんです。島は蚊がとても多いので、蚊やり器はいつか作りたいですね(笑)。

――最後に、今回の展覧会の内容について教えていただけますか?

ミロコ 3匹の猫の立体作品のほか、昔描いた猫の絵も飾っているので、猫たちに助けられてきた私の人生と新たな挑戦が入り混じった、珍しい展覧会になっています。改めて、私の人生における猫の重要性が分かる内容なので、ぜひ多くの猫好きの方に足を運んでほしいです。

ミロコマチコ
1981年大阪府生まれ。画家。いきものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催。絵本『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で第18回日本絵本賞大賞を受賞。ブラチスラバ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)で、『オレときいろ』(WAVE出版)が金のりんご賞、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)で金牌を受賞。その他にも受賞歴、著書多数。第41回巌谷小波文芸賞受賞。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。2020年から、展覧会「いきものたちはわたしのかがみ」が全国美術館を巡回。2019年より南の島に移住し、自然の動きと密接なつながりを感じながら、見えないものの気配や生命の煌めきが濃厚に漂う作品を生み出している。

ミロコマチコ オフィシャルサイト
https://www.mirocomachiko.com/