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2025.06.08
#コラボレーション

Interviews Vol.08 藤城成貴さん

空間の要素として調和する、
静かな存在感

Photo by Taro Hirano

国内外で幅広いプロダクトデザインを手がける藤城成貴さん。これまであえて避けてきた、キャラクター性の強い招き猫のデザインに初めて挑みました。装飾を削ぎ落としたミニマルな招き猫「MAG MANEKI」は、頭部と胴体、そして腕をマグネットで接合し、飾る場所や気分で向きを変えたり、掲げる手を選べたりと、遊び心あふれる仕掛けが魅力です。プロダクトデザイナーならではの斬新な発想から生まれた「MAG MANEKI」の制作秘話をうかがいました。

従来の招き猫の概念を覆す、ミニマルなフォルム

――これまで有田や美濃といった焼き物の産地でプロダクトデザインを手がけていますが、今回は瀬戸で物づくりが実現しました。オファーがあったときの気持ちをお聞かせください。

最初は少し躊躇しました(笑)。というのも、中外陶園は多くの縁起物を手がける陶磁器メーカーです。そこで、僕が全く異なる分野の物を作っても難しいでしょうし、かといって、その長年培ってきた土壌の中で、僕に何ができるだろうという迷いがありました。

――その気持ちを変えた要因は何だったのでしょうか?

一つは鈴木社長の熱意。もう一つは、中外陶園の工房や招き猫ミュージアムを見学した際、招き猫が掲げる手にはそれぞれ意味があることを知り、興味を持ったことです。巷にあふれるほど存在する招き猫の世界で、プロダクトデザイナーとして僕に何ができるのか、その答えを探求してみたいと思うようになりました。

Photo by Taro Hirano
            

―それまで招き猫に対してどのようなイメージをお持ちでしたか?

僕が思い浮かべる招き猫といえば、小判を抱いた二頭身の招き猫の姿でした。そのイメージだったので、僕の家に置くには少し存在感が強すぎるなと感じていました。では、どんな招き猫なら置きたいかと考えたとき、空間の要素としてひっそりと佇むくらいの存在感がちょうどいいと思ったんです。同時に、そんな招き猫なら僕がデザインする意義があると感じました。

――確かに一般的な招き猫は存在感がありますね。それを空間にさりげなく調和させるのは難しかったのではないでしょうか?

ええ、いつもより時間がかかりました。最終的には普段と同じように紙で形を整えていきましたが、最初は慣れない粘土で原型を作るなど、かなり試行錯誤しました。

――そうして生まれたのが、余分な要素を削ぎ落とした「MAG MANEKI」のフォルムなのですね。

そうです。招き猫は、尖った耳と掲げた片手によって、どうしてもキャラクター性が強調されて、可愛らしい印象になります。僕は何とかそれを払拭したくて……。ミニマルでありながらも存在感のあるデザインを検討しました。

熟練職人の探求心がもたらした創意工夫

Photo by Taro Hirano

――頭部と胴体、手をそれぞれ独立させようと思われたのは、どのような理由からですか?

デザイナーとして新しい要素の導入には興味があります。意味の異なる右手と左手を自分で選べたり、途中で変えられたら面白いと思ったし、デザインの重要なポイントになると感じました。

――頭部と胴体、手の接合にマグネットを使用するアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

それは中外陶園からの提案でした。その発想は僕にはなかったので、初めて聞いたときは『すごくいい!』と思いました(笑)。でも、それから完成まで、さらに時間を要しました。マグネットの磁力が弱いと腕が外れてしまうし、逆に強すぎると勢いよく吸着して破損する可能性があります。また、マグネットが厚すぎると正面から見えてしまうなど、試作段階で何度も調整してもらいました。

――製造する過程でも難しさがあったのでしょうか? 

焼き物なので、収縮率の調整はとても難しいですね。また、平らな面は焼成すると凹んでしまうため、予めわずかに膨らませておく必要があります。四角い胴体や角張った顔の形状を保つことも、首元の滑らかな丸みの維持も難しかったと思いますが、その点は熟練の技を持つ中外陶園の職人の方々にお任せしました。

――今回は白色が基本カラーですが、黄色と桃色の招き猫も数量限定で販売されるそうですね。色に関して、何か要望はありましたか?

普段はグレーや黒を選ぶことが多いのですが、今回は縁起物ということを考慮して白を選びました。それ以外に、招き猫が招く「お金」は黄色、「人」は桃色のイメージがあったので、その色が使えたらいいなとは思っていたんです。ただ、今回は手の形状が特殊なため、釉薬を使うことが難しくて……。そうしたら、中外陶園が色紛を混ぜた磁器土を提案してくれました。実は以前、有田焼の制作でお願いしたことがあるのですが、色紛入り磁器土は非常に手間がかかるという理由で断られた経験があったので、その提案を聞いたときは本当に嬉しかったですね。

パッケージのイラストに込めた想い

Photo by Shigeki Fujishiro

――アーティストのフィリップ・ワイズベッカーさんにパッケージのイラストを依頼された理由をお聞かせください。

彼とは以前から親交があり、いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていました。過去に彼が日本の郷土玩具を描いていたのを思い出し、招き猫の絵を描いてもらえたら、さぞかし良いパッケージになるだろうと考えました。また、今回は頭部と胴体のほかに、右手と左手がセットなっているのですが、実際に取り付けられる手は一つだけなので、もう片方の手は箱に保管することになります。だから、箱そのものも魅力的なものにしたかったのです。それと彼のイラストが加わることで、より幅広い層の方たちに手に取ってもらいたいという思いもありました。

――初めて出来上がった「MAG MANEKI」をご覧になって、どのように感じましたか?

Photo by Shigeki Fujishiro

ほかの仕事でも完成は待ち遠しいものですが、今回は特に楽しみにしていたので、実際に手にしたときは嬉しかったです。

――皆さんにとって「MAG MANEKI」がどんな存在になったら嬉しいですか?

僕のように、招き猫の存在感が強すぎて空間に置きたくないと感じている方たちが、『これなら自分の空間に置いてもいいかな』と思っていただけたら、それが一番嬉しいですね。

Photo by Taro Hirano
        

――STUDIO 894のギャラリーで、2025年6月7日(土)~7月27日(日)まで展示会を予定されていますが、どのような内容になりそうですか?

基本的には「MAG MANEKI」のお披露目となります。制作過程がわかるスケッチや鋳込み型の展示のほか、ワイズベッカーの原画も展示したいと考えています。ぜひ、多くの方に足を運んでいただけると嬉しいです。


藤城成貴

株式会社イデーのデザイナーを経て、2005 年に自身のスタジオ「shigeki fujishiro design」を設立。インテリアプロダクトを主軸に活動を行なっている。エルメス、アディダス、カンペール、有田焼のブランド「2016/」といったブランドとのコラボレーションをする一方、自身でプロダクトの企画、生産、販売まで行なっている。近年はデンマークのテキスタイルブランド KVADRAT 社による「Knit!」や多治見の焼き物プロジェクト「MINO SOIL」、香川県の庵治石を使った「AJI project」といったプロジェクトに参加している。

藤城成貴オフィシャルサイト
http://shigekifujishiro.com/

コラボレーション商品はこちらから ※6/9(月)~販売開始予定
中外陶園オンラインストア

※2025年6月7日(土)にSTUDIO 894で開催いたしましたトークイベントの配信アーカイブをご覧いただけます。こちらもぜひご覧ください。
ご視聴はこちらから