
Interviews Vol.11 はしもとなおこさん(後編)
陶板に描き出した独創的なアートの世界

アートとテキスタイルという、二つのフィールドで活躍するはしもとなおこさん。今回、中外陶園との協働により、磁器の陶板作品という新たな領域に挑戦しました。前編では、中外陶園の鈴木社長とともに、はしもとさんに創作活動への思いや中外陶園の工房の印象についてお聞きしました。後編では、はしもとさんと鈴木社長のお二人に、新領域に挑戦した思いやこだわり、そして、2026年1月10日(土)より開催の個展「call」について語ってもらいました。
制約の中から生まれた独自の表現

―今回の作品制作では、どのような点にこだわりましたか?
はしもとなおこさん(以下、はしもと) 今回、自身のアトリエで2回のテストサンプル制作と、中外陶園の工房での制作をさせてもらいました。1回目のテストサンプルの仕上がりを見たときに、磁器陶板の質感をより際立たせるには、色数を絞る方が効果的だと感じました。そこで、普段から愛用している黒と青、そして、その2色と相性の良い茶色を使うことにしました。釉薬については、会期が冬であることを考慮して、温かみのある質感が得られるマット釉も使ってみました。
―釉薬の使い方や表現方法でさまざまな挑戦をされたそうですね。
はしもと 私は、制約があればあるほど、「挑戦したい!」という意欲が湧いてくるタイプなんです。今回は色の制約に加えて、職人さんが普段使わない手法にも興味が湧いてきて、無性に試してみたくなりました。たとえば、絵の具を塗るように透明釉を筆塗りしてみたり、陶板の側面に絵の具を塗ってみたり、あるいは陶板の素地をそのまま活かしてみたり。その結果、作品の表情が豊かになり、奥行きも生まれました。

―陶板の焼成前後で絵の具の発色がかなり異なりますが、その変化は制作に影響しませんでしたか?
はしもと その点は、テキスタイルの世界で培ってきた染色の知識が大きく役立ったようで、あまり影響はありませんでした。布用の染料も、陶磁器の絵の具と同様に熱の影響によって色が変わる場合がありますが、頭の中に明確な設計図さえあれば、色の変化をそれほど気にせずイメージができるんです。
中外陶園・鈴木社長(以下、鈴木) 職人たちも仕上がりを見て、「これを焼く前からイメージしているのはすごい」と驚いていました。透明釉の筆塗り部分も、はしもとさんの作風に合った素敵な仕上がりになっていますよね。
やきものならではの表現と協働による広がり

ー鈴木社長は、今回のはしもとさんの陶板制作について、どのような印象を持ちましたか?
鈴木 釉薬は一般的に絵柄を保護する役割を担います。でも、はしもとさんは釉薬をまるで絵の具の一つのように、作品の表現手段として使われました。私たちにはその発想がなかったので、とても驚きました。また、釉薬と絵の具が混ざり合う現象さえも、はしもとさんは“自然の力”として肯定的に受け止めてくれました。その柔軟な姿勢があったからこそ、私たちも安心して、新たな挑戦に取り組むことができました。

―今回の協働を通じて得られた気づきはありますか?
鈴木 はしもとさんには、私たちが普段扱っている素材や材料を用いながら、私たちだけでは成し得ない試みにチャレンジしてもらいました。はしもとさんのエッセンスが加わることで、慣れ親しんだ素材から見たことのない表現が生まれ、新しい気づきがありました。表現の幅が広がるとは、まさにこういうことなのだと実感しています。
はしもと 職人さんたちには嫌がられたかもしれないのですが、絵付け中はとても楽しくて、予定よりも多くの作品を作らせてもらいました。
鈴木 嫌がられるようなことはないので安心してください(笑)。職人たちも、はしもとさんの思いに応えるべく、徹底した温度管理を行うなど細部まで配慮し、陶板を焼き上げました。今回の協働を通じて、陶板の可能性を広げることができ、とても嬉しく思っています。

―数ある作品の中で、はしもとさんが特に気に入っている作品はありますか?
はしもと 6枚の陶板を組み合わせて描いた植物の作品です。制作中、たまたま筆から黒色の下絵の具が垂れたのですが、その落ちた位置が絶妙で。「よし!これはうまくいく」と思いました(笑)。ほかにも、鳥の作品では、ブラシを用いて呉須を飛び散らせたのですが、その仕上がりもとても良くて。その作品も、自分の家に飾りたいと思うほど、とても気に入っています(笑)。
一つひとつの作品に“祈り”を込めて

―2026年1月10日(土)から始まる個展「call」は、どのような内容になりますか?
はしもと 中外陶園の工房で職人さんたちの真摯な姿勢に感銘を受けたこともあり、今回の陶板作品に全力で思いを注ぎました。その思いが、作品を手に取った方に伝わったらいいなと思っています。また、これまで平面的で無機質だった陶板の印象が、色の濃淡や釉薬を工夫することで有機的で温かみのあるものに感じられるようになりました。会場には個性豊かな40点の陶板作品が並びますので、皆さんにも陶板が持つ奥深さや新たな魅力を堪能してほしいと思います。
鈴木 はしもとさんから「陶板の素材や雰囲気をそのまま展示したい」とリクエストをいただいたので、私たちも展示方法に工夫を凝らしています。ぜひ、会場で実物をご覧いただいて、はしもとさんの陶板作品が醸し出す繊細で力強い筆づかいを感じてほしいです。


はしもと 普段、絵を飾る習慣がない方も、この陶板作品なら飾りやすいような気がします。また、作り手の思いが込められた作品が部屋に加わることで、暮らしや空間の満足度が高まることを体感してもらいたいですし、この作品がそのきっかけになったら嬉しいです。
テキスタイルデザイナー / アーティスト
はしもとなおこ
金沢美術工芸大学 工芸科卒業。2011年よりフリーランスのテキスタイルデザイナー、また主に絵画の制作を行うアーティストとして活動し、国内外での展示や、メーカーへの図案提供など活動の幅を広げている。日々の中でふと心を軽くしてくれるモノをつくるべく、線や形、色を探し続けている。
はしもとなおこオフィシャルサイト
https://www.hashimotonaoko.com/
Instagram
@hashimoto___naoko
1/10(土)~2/23(月・祝)開催 はしもとなおこ 個展「 call 」詳細はこちらから



