
Interviews Vol.12 Cul de Sac – JAPON(前編)
青森ヒバ×陶磁器
産地を超えて高め合うものづくり

「日本三大美林」の一つである青森ヒバを使い、現代のライフスタイルに寄り添うプロダクトを提案する「Cul de Sac – JAPON(カルデサックジャポン)」。そして、愛知県瀬戸市を拠点に、人々に寄り添う招き猫や干支などの置物を手がける「中外陶園」。扱う素材は違っても、両社に共通するのは、地域の資源や技術を守り、真摯にものづくりに取り組む姿です。
今回は中外陶園の鈴木社長を交え、Cul de Sac – JAPON代表の村口実姉子さんに青森ヒバの特徴や、そのよさを活かすプロダクトへの思い、中外陶園とのコラボレーションで誕生した「香る招き猫」の制作秘話を語ってもらいました。
貴重な資源を最大限に活用し、新たな価値を提案

―Cul de Sac – JAPONを立ち上げたきっかけを教えてください。
村口実姉子さん(以下、村口) きっかけは、祖父の代から続く製材業を継いだ父が、青森ヒバに魅了され、それだけを扱うようになったことです。私は当時、東京・中目黒で「Cul de Sac」というアパレルブランドを展開していたのですが、父から商品開発の相談を受けるなかで、青森ヒバという素材が持つ可能性に改めて気づかされました。「この魅力をもっと多くの人の日常に届けたい」という思いから、2015年に青森ヒバのプロダクトを提案するラインとして、Cul de Sac – JAPONをスタートしました。
―青森ヒバの具体的な魅力とはどういった点でしょうか?
村口 青森ヒバの最大の特徴は、天然成分の「ヒノキチオール」や「β-ドラブリン」を豊富に含んでいることです。これらが独特の香りと共に、抗菌、防虫、消臭、そしてリラックス効果をもたらします。ただ、私自身はあまりに身近すぎて、最初はその魅力に気づいていなかったんです(笑)。気づいたきっかけは、友人たちに青森ヒバの箸などをプレゼントしたら、「すごく香りがいい」とみんなが喜んでくれたことでした。そこから次第に「この素材で、ものづくりをしたら?」と考えるようになり、その可能性にワクワクしたんです。


―具体的にどのような商品をつくられているのですか?
村口 青森ヒバの個性を活かした丸太の1点もののアイテムをはじめ、ヒバチップや粉状にした青森ヒバから水蒸気蒸留法で抽出した精油、フレグランスリキッドですね。ほかにも、液体せっけんや入浴液といったボディケア商品も展開しています。また、青森ヒバの特性を備えた繊維「Filhiba®(フィリバ)」を開発し、その繊維を使った洋服も手がけています。
―商品化する上で意識していることはありますか?
村口 私たちは、製材時に発生する端材を使用していますが、この端材も青森ヒバの豊富な成分を含んでいます。なかでも、精油は有効成分を多く含む赤身(内側部分)から抽出していますが、100キロの材からわずか1%ほどしか取ることができません。私たちは、この貴重な資源を一つも無駄にすることなく、自然の恵みを身近に感じていただけるようなものづくりを目指しています。
産地の本当の価値を知るからこそ、正しく伝えたい

―Cul de Sac – JAPONも中外陶園も産地との関わりが深いですが、地域の活性化についてはどのように考えていますか?
村口 実は、そこまで難しいことは考えていないのかもしれません。ただ、「こういうものがつくりたい」と思ったとき、まずは地元・青森の企業やつくり手に相談するようにしています。たとえば、バスソルトがつくりたいなら地元の製塩工場、テーブルの脚なら実家の隣の鉄工所、といった具合に。もちろん、地元だけでは対応できないこともたくさんあります。その場合は、地域に縛られず、中外陶園さんのように信頼できるプロの方たちを頼るようにしています。
鈴木 以前、村口さんが「ピントがずれた解釈で青森ヒバの価値を広められるくらいなら、その価値を正しく理解している自分が伝えたい」と話されていて、私たちの共通した背景だなと感じました。瀬戸が積み重ねてきた歴史や、職人たちが培ってきた技術。産地が大切にしてきたこれらの本質を、つくり手である私たちが伝えることが大切だと考えています。そして、私たちのこの思いに共感してくれる人が、一人でも増えてくれたら嬉しいですよね。
村口 中外陶園さんには地方から移住して働いている方もいらっしゃいますよね。それは産地そのものに魅力がある証拠ですから、とても素晴らしいことだと思います。一方で、青森は人口減少という、とても大きな課題を抱えています。文化や物を残す前に、まず人が残り、生活できる環境を維持しなければなりません。Cul de Sac – JAPONの商品が、青森のものづくりに興味を持つきっかけになれば嬉しいのですが……。これについては、私の中でもまだ答えを模索している段階です。
木と陶器の相性のよさが導いた「香る招き猫」

―2024年に、木と陶器を組み合わせた初のプロダクト「香る招き猫」が誕生しました。このアイデアはどちらから提案されたのですか?
鈴木 私からです。当初は、STUDIO 894 でのPOP UP イベントのご相談をするつもりだったのですが、直接お会いする機会をいただけたので、思い切って「招き猫にオイルを垂らして香らせるのはどうでしょう」と提案しました。そうしたら村口さんが「招き猫は縁起もいいので、新年の初売りに間に合わせましょう」と言ってくださって……。翌月にはもう形になっていましたね(笑)。
村口 ちょうど新作のフレグランスリキッドが完成したタイミングだったんです。中外陶園さんの招き猫は、華やかな絵付けももちろん魅力ですが、私はあえて「この美しいかたちのまま、絵付けをせずに仕上げることはできますか?」と相談しました。実は、施釉されていない陶器は、フレグランスリキッドを程よく揮発するので、香りを楽しむ素材としてとても相性がいいんです。


鈴木 長年つくり続けてきた招き猫を村口さんが気に入ってくれたことは、私たちにとって大きな自信につながりました。また、Cul de Sac – JAPONさんとの取り組みを通じて、無理にかたちを変えずとも、視点を変えるだけで新たな価値が生み出せるという気づきを得ることができました。
村口 これまで他社とのコラボレーションは積極的に展開していないので、継続して販売している商品自体がとても珍しいんです。「香る招き猫」は、私たちだけでは絶対に実現できなかったと思いますし、中外陶園さんの歴史をお借りしながら、新しい価値を共につくらせてもらったという感覚が強いですね。

Cul de Sac – JAPON
主に建築資材の加工過程で生じる青森ヒバの端材を利用し、持続可能なものづくりを追求するブランド。素材となる青森ヒバは、日本で唯一「ヒノキチオール」や「β-ドラブリン」を豊富に含み、優れた抗菌・防虫・消臭効果、そして深いリラックス効果をもたらす。世界でも稀なこの特性を活かし、現代のライフスタイルに寄り添うデザイン性の高いプロダクトを提案しており、その独創的なアプローチは国内外から注目を集めている。



