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2026.09.05
#インタビュー

Interviews Vol.15 平澤まりこさん

愛しきものたちを思うとき、心がほどける瞬間をかたちに

柔らかな線と独自の色彩で描かれる絵画や描版画作品などを通じて、多くの人を魅了し続けている画家の平澤まりこさん。シンプルでありながら愛おしさに満ちた作品の世界観はもちろん、日々の暮らしを慈しむ丁寧なライフスタイルにも多くの共感が寄せられています。今回、中外陶園とのコラボレーションにより、愛らしい動物たちが佇む磁器製の小物入れと、直筆の陶板作品が誕生しました。平澤さんのものづくりへの姿勢や暮らしの美学、そして作品に込められた温かな思いについて、じっくりとお話を伺いました。

自分を整え、心をひらく。ものづくりと暮らしの軸

―平澤さんが日々の暮らしや制作活動において、もっとも大切にされている軸を教えてください。

平澤まりこさん(以下、平澤) 私はいつも「制作に向き合っているときの自分」の状態をとても大切にしています。相手になにを届けたいかということももちろん大切なのですが、その前にまず自分自身が心地よく整っていなければ、受け取ってくださる方へよいエネルギーをお伝えすることはできないと思うんです。だからこそ、日々の暮らしの中でまずは自分自身の心をしっかりと満たし、整えることを心がけています。制作しているときの楽しさや豊かな気持ちも一緒に届けられることが一番の理想です。

―日々の暮らしでご自身を整えることを大切にされている平澤さんですが、ご自身の空間に置く「モノ」を選ぶときも、そうした心地よさの基準があるのでしょうか。

平澤 そうですね。家に置くモノって、共に暮らす家族のような存在だと思っています。本当に愛着を持てる大切なものだけを身の回りに置きたいです。それと、私にとっては「誰が作っているか」という制作背景もすごく大きな要素です。たとえ量産されるプロダクトであっても、そのモノに込められた作り手の思いや姿勢に惹かれます。それは私自身が制作するときも同じで、一緒にものづくりをする方々と心が共鳴しあえる関係をなにより大切にしたいと思っています。

日常に寄り添う、愛しさあふれるプロダクト

―今回のコラボレーション製品「a Box for My dear Companions」のコンセプトについて教えてください。

平澤 「身近にいる愛しいものたちのことを思って作るなら、どんなものがいいだろう」と想像を膨らませて作った小物入れで、性別や年齢を問わず、手に取る方たちの暮らしに優しく寄り添えるようなものを目指しました。蓋にあしらった犬、猫、馬のモチーフは、日々の暮らしの中で、私に大切なことを教えてくれる存在です。中にしまう大切なものを、動物たちがそっと見守ってくれるイメージも込めています。

―動物たちのポーズやフォルムの曲線がとても愛らしいですね。どのような思いが込められているのでしょうか。

平澤 それぞれの動物にはサブタイトルがついていて、ポーズにも意味を込めてデザインしています。まず犬は、「Relax」。私自身も犬を飼っているのですが、帰宅したときに甘えて無防備におなかを見せてくれる姿がとても愛おしくて。一緒に暮らしているからこそ見られる特別な関係性や温かさをかたちにしました。猫は「Play」で、一緒に遊ぼう!とじゃれつくような無邪気な一瞬を捉えています。そして馬は「Share」。私にとって馬は、自分自身の内なる世界の象徴でもある大好きなモチーフなのですが、背中には小さな鳥が乗っています。大きさも存在も違うもの同士が優劣なく対等に思いを分かち合っている。そんなフラットで理想的な関係性を表現しました。
「Relax」「Play」「Share」という3つの言葉は、私が大切にしているキーワードなんです。

―色合いや質感にはどのようなこだわりがありますか?

平澤 甘すぎず、どこか異国感漂う落ち着いたトーンを目指しました。動物のモチーフ自体に可愛らしさがあるので、質感はマット釉で大人っぽく仕上げています。色の指定をする際も、カラーサンプルの番号で機械的に伝えるより、イメージする色やニュアンスをそのまま見てもらいたくて、水彩で色を載せた画用紙をお渡ししました。私が表現したい絶妙な色味の揺らぎが一番伝わると思ったんです。やきもの特有の発色や色の変化と向き合いながら、丁寧に調整を重ねてくださったおかげで、思い描いていた色合いに仕上がりました。

―この小物入れを暮らしのなかでどのように使ってほしいですか?

平澤 私自身は、いつも自分のデスクに置いて使っているのですが、みなさんそれぞれの暮らしに合わせて、自由に楽しんでいただけたらと思っています。例えば、仕事中に外したアクセサリーをサッと入れたり、玄関に置いて小銭やカギの定位置にしたり。愛犬や愛猫のちょっとしたおやつを入れておくのも良いですよね。あとは、ポプリやお気に入りの香りを忍ばせておいて、ときどき蓋を開けて香りに癒やされたり・・・。大切な鉱石やお守りを入れておくのも素敵ですよね。この小さな器の中に自分だけの大切なものをそっとしまって、日常のふとした瞬間に寄り添う存在になってくれたらと願っています。

偶然性が生み出す、直筆陶板の魅力

―小物入れだけでなく直筆陶板も制作されました。キャンバスに描くときとの違いはありましたか?

平澤 焼いたときの色の変化を頭の中で想像しながら描く難しさはありました。でも、焼き上がったものを見たときに「こうなったんだ!これはこれでいいね」と思えるような、意外性や偶然性がすごく面白かったです。自分の描く意図に加えて、思いもよらない力が 重なりながら作品が生まれていく感覚は、版画にも通じるものがあって、とても魅力的な体験でした。

―17点制作された陶板のなかで、特にお気に入りの1枚はありますか?

平澤 それぞれに気に入っていますが、砂遊びをしている馬を描いた陶板は面白い仕上がりになったな、と思いました。普段は立っている姿を描くことが多いのですが、個展タイトルである「for my dear Companions ー愛しきものたちへ」にあわせて、愛しきものを思ったときに心に浮かぶ、無邪気に遊ぶ姿を表現しました。背景に生まれた塗りのゆらぎが良い表情になってくれて気に入っています。ほかの陶板作品はマット釉で仕上げているのですが、この陶板だけ透明釉にしたのも特徴的でした。もともとよく描く天使をテーマにした作品なども含め、会場で質感の違いやそれぞれの表情を楽しんでいただけたら嬉しいです。

愛しいものと、心がふとほどけるひとときを

――最後に、この作品やプロダクトを通してどんな時間を届けたいですか?

平澤 無邪気な動物たちとふれあうと、自分自身がリセットされたり、たくさんのものを受け取ったりします。そんな愛しい存在たちと過ごした時間や思い出をかたちにしたいという気持ちから、今回の小物入れと陶板は生まれました。愛らしい動物を目にしたときに、理屈抜きに頬がゆるむ瞬間があると思います。そんな風に、作品やプロダクトを手にしてくださる皆さんの心がふとほどけるようなひとときを過ごしていただけたらと思っています。


画家・イラストレーター
平澤まりこ

東京生まれ。広告、パッケージデザイン、室内装飾、絵本など多岐にわたる分野で活動。近年は描版画という独自の手法を用いた版画作品の制作をメインに国内外で個展を開催している。著書に作品集「いつかの森」(求龍堂)、「ミ・ト・ン」(幻冬舎文庫、小川糸との共著)ほか多数。

Instagram:@mariko_h