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2024.07.31
#コラボレーション

Interviews Vol.03 millitsukaさん

妄想の世界からリアルな世界へ
力強い線と色で描く瀬戸の風景

2024年2月、イラストレーター、 millitsuka(ミリツカ)さんの力強い線と鮮やかなグラデーションで描かれた瀬戸の街並みが、STUDIO 894のギャラリーを彩りました。この個展の開催にあたり、事前に瀬戸の街を歩いたmillitsukaさんの目には、やきものの街として伝統を紡ぐ瀬戸の魅力とともに、自身の創作意欲を刺激するたくさんの発見があったようです。今回はmillitsukaさんの日々の創作に込める想いや、STUDIO 894の個展のために描いた原画や瀬戸焼タイルの絵付けについてお聞きしました。

時間をかけて丁寧に描いた
瀬戸の愛らしい街並み

―millitsukaさんといえば、自他ともに認める“散歩好き”だそうですが、実際に瀬戸の街を歩いてみていかがでしたか?また、個展会場となったSTUDIO 894の印象もお聞かせください。

瀬戸はとてもコンパクトで歩きやすかったです。街のあちこちにある丸い窯道具がかわいらしくて、たくさん写真を撮りました。STUDIO 894は、初めての方でも気軽に絵付け体験ができる貴重な場所です。私が行ったときも絶えず人が訪れていて、まるで市場のような活気がありました。ギャラリーも機能的ですし、きれいな建物だなと思いました。

―散歩はご自身の創作活動にどのような影響を与えていますか?

私にとって散歩は、街の空間や状況、オブジェクトの中から断片的にいいものを見つけて、なぜそれが好きなのかを紐解いていく感じなんです。だから、気になる場所を見つけたら、すかさずカメラにおさめますが、その写真を見返すことはほとんどなくて……。どちらかというと、心身のリフレッシュや刺激といった精神面に大きく影響しているように思います。でも、STUDIO 894の個展では、瀬戸の街で何を見たのかを思い出し、それを作品に活かしました。

ー展示された原画では、millitsukaさんの独特の視点で切り取られた瀬戸の街が、グラデーションがかったカラフルな色で表現されていました。こちらはどんな手法で描かれているのでしょうか?

私はもともとデジタルで描いていたのですが、パソコンの液晶画面で見る色と紙や布に出力したときの色がどうしても違うことがあって。同じ色を再現するために、筆やポスカなどでも描いてみたのですが、自分の描いた履歴が線に残るのがよい反面、情報量が多くなるのが嫌で。試行錯誤した結果、辿り着いたのがエアブラシでした。水で溶いたアクリルガッシュをエアブラシで噴くと、筆で描いたような厚みが線に出なかったので、今は個展の原画のほとんどをエアブラシで描いています。

―よく見ると下地もキャンバスではないような?

そうですね、4辺を斜めにカットした木製パネルを使っています。その上に下地材のジェッソを塗って、表面を滑らかに削る作業を2回ほど繰り返し、その後にマスキングシートのデータを作り、下地に写したイラストの上にカットしたマスキングシートを貼ります。そこでようやくエアブラシが噴けるんです。この作業を何度も繰り返し、仕上げに白の水性ペンキをローラーで塗って、最後に黒い線を描いて完成します。原画制作はとても手間がかかるので、取り掛かるまで気持ちを高めるのが本当に大変なんです(笑)。

染付は一発勝負!
表現者として心地よい緊張感に胸が躍る

―エアブラシ作品とは別に、個展ではmillitsukaさんが絵付けした染付タイルもたくさん展示されましたが、初めての染付体験はいかがでしたか?

原画制作とは楽しさが全然違いました(笑)。一発勝負という点ではエアブラシと同じなのですが、染付は塗るというよりも、線を描く感覚に近いなと思いました。まるで習字を書くような、軽やかさと心地よい緊張があって、とても楽しかったです。

―染付は中外陶園の工房で行われたそうですが、事前にアドバイスなどはありましたか?

これまでも企業と一緒にものづくりをすることはありましたが、スタッフの方たちが仕事をしている傍らで絵を描くことはなかったので、すごく緊張しました(笑)。私と違って、皆さんが描く染付はとても繊細なので、作業風景は怖くて見られなかったです。でも、皆さんがとても親切にやさしく教えてくれたので、できあがったタイルは私のイメージ通り。自分のことを少し褒めてあげました(笑)。

絵とは異なる表現として
ますます高まる立体物への憧れ

―今回の個展を経て、millitsukaさんの中で得られたものはありましたか?

私は形を理解することが好きなんです。だから、いつも見たものを頭の中で咀嚼しながら、イラストを描いています。STUDIO 894の個展でも同じように描きましたが、今回は線だけでも十分に立体として伝えられることが分かって、それこそ、立体物をやりたいという気持ちがさらに強くなりました。でも、実際に立体物を作るには、実現可能な手法を取捨選択しなくてはならないわけで……。今は、絵を見せるだけではなく、同時にその人の手に立体物を持たせることの難しさ、そして、手に持って共有できることの尊さをずっと考えています。

―最後にmillitsukaさんにとってイラストとは?

私が描くイラストはすべて妄想の世界なんです。こういう場所があったらいいなとか、こういうものが見たいなとか。その中で、言葉では伝えてにくいことを、絵を通して伝えている感覚なんです。色についても同じかもしれません。私は言葉で特定できないような色がすごく好きですし、時間の経過によって見え方が異なる色を表現したいと思っていて、それに最も適した手法がエアブラシなんです。仮に同じ人が見ても、その日の気分で色の感じ方が変わることもあるし。だから、私は絵がとても好きなんです。

millitsuka
武蔵美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。東京在住。 第206回ザ・チョイス入選、第14回グラフィック 1_WALLファイナリスト、HB FILEコンペvol.31 仲條正義賞。 デジタル、アナログ両方の手法でグラデーションを特徴としたイラストを制作。 広告や装画のイラストレーションのほか、個展などの個人制作も行う。

millitsuka Instagram
https://www.instagram.com/millitsuka/