Interviews Vol.02 水元さきのさん
光を受けて輝きを増す水と
呉須の濃淡が織り成す”青の世界”
2023年11月9日~26日に開催されたイラストレーター、水元さきのさんの個展「WATER」では、躍動する“水”を線と色で的確に捉えた作品が壁を彩りました。その中で、水元さんにとって初めての試みとなった染付は、呉須の濃淡が巧みにコントロールされ、“青”を基調とした原画との親和性の高さを裏付けました。今回は、STUDIO 894での個展を振り返りつつ、新たなフェーズを迎えた水元さんの創作活動についてお聞きしました。
水の躍動感を二次元の世界に落とし込む
―愛知初開催となったSTUDIO 894の個展ですが、まずはオファーを受けたときの心境をお聞かせください。
私は東京で生まれ育ったので、瀬戸はあまり馴染みがない場所でした。だから、最初は私が描く人物のイラストが、伝統的な模様や植物、動物の染付がスタンダードの瀬戸で受け入れられるだろうかと、少し不安に思ったことを覚えています。でも、キュレーターの塚本太朗さんは、私の初個展のときからお世話になっている方ですし、今回、磁器製タイルの染付にもチャレンジできると聞いて、ぜひにとお受けしました。
ーSTUDIO 894の個展は、大阪の「PARCO」に続く巡回展でもあったとお聞きしました。個展のテーマである”水“には、どのような想いを込めたのでしょうか?
水をテーマにしたのは後付けなんです。以前から、時間の変化によって、空間をより印象的に演出できる作品を作りたいと思っていて、個展では光の影響を受けやすい透明のアクリル板にイラストを描きました。この“透明”と私が用いる“青”を組み合わせたら、必然的に“水”に辿り着いたんです。水は形も温度も手触りも変わります。その水の流動性をイラストで表現できたらおもしろいだろうなと思ったんです。
線と面を融合させることで増す“透明感”
―STUDIO 894のギャラリーに飾られた作品は、これまで水元さんが描かれた“青”の世界から、さらに深みが増していたように見えました。ご自身で振り返って、どのように感じていますか?
私は、子どものころからきれいな線を見るのが好きで、自分でもうっとりするような美しい線を描きたいと思って、イラストを描き始めました。でも、線は描き過ぎてもダメですし、描かな過ぎても伝わらない。シンプルであるが故の難しさがあり、描く人のこだわりがそのまま滲み出るような気がするんです。私が日々描くイラストも、ある程度の形を思い浮かべたら、その輪郭を感じるままに線で描きます。そして、そこから気持ちのいい線、美しい線を求めて取捨選択を繰り返すんです。STUDIO 894の個展も、これまでと同じように美しい線にこだわりましたが、その一方で新たなチャレンジもしました。それは輪郭を線で描くのではなく、面(塗り)で表現することです。私がこれまで求めてきた美しい線と、新たに描く面(塗り)を融合させることで、透明感と柔らかさをより表現しました。
―チャレンジというと、染付もそのひとつだったと思いますが、実際にやってみていかがでしたか?
事前にYouTubeの解説動画を見て、それから中外陶園でお借りした道具を使って何度も練習しました。実際に体験してみて、染付は水を操る行為だと気づきました。表面張力や浸透する水の性質、動きを上手にコントロールすることで、色の濃淡が生まれたり、形になっていくんです。水彩絵の具も“にじみ”や“弾く”といった水と紙の関係がありますが、染付にも同じように陶器と水、粉と水といった関係があって。触れれば触れるほど、水を扱うおもしろさと新しい道具を使う楽しさが味わえました。
創作の糧となる引き出しをさらに増やす機会に
―STDIO 894での個展は、水元さんの作品と染付の相性のよさを感じることできました。今回の体験が、水元さんの今後の創作活動に生かされることがあったら嬉しいですね。
そうですね、会期中は染付の似顔絵ドローイングもさせていただいたのですが、もっと技術や伝統的な模様を勉強したいなと思いました。そのうえで、私が水彩画で行っている色の使い方や重ね方を加えていったら、伝統的な染付とはまた違う、表現の幅が広がるような気がしました。今回の個展は準備期間が短かったのですが、また機会があればもっといいものを作りたいなと思います。
ーSTUDIO 894での個展を終えて、水元さんの創作活動にも変化が生まれたとお聞きしましたが、それはどんなことでしょうか?
今回、染付という新しい手法に触れ、また東京以外の場所で個展を開催したことで、もっといいものを作りたい!という思いが強くなりました。そのためには、自分自身の引き出しをもっと増やさなくてはだめなので、今年は改めてイラストを学ぶ機会を設けたり、美術館などで多くの作品を見たり、私とは全くテイストの異なるイラストレーターたちの話を聞くようにしています。そして、線だけではなく、面(塗り)とももっと仲良くなって、もう少し奥行きのある表現をしていきたいと思っています。
水元さきの
1995年生まれ。東京在住。美しい線に魅了され、小さいころからイラストを描き始める。大学卒業後は企業に勤めながら絵を描き続け、Instagramにイラストを発表。次第に青を基調としたイラストが人気となり、2019年にフリーのイラストレーターとして活動をスタート。現在は、書籍やCDジャケット、広告など幅広いジャンルで活躍中。2023年、初となる作品集「そこから見た景色の話を 水元さきの作品集」(芸術新聞社)を刊行。
水元さきのInstagram
https://www.instagram.com/ramunechoco/