Interviews Vol.04 福田利之さん
従来のイメージとは異なる、福を招く“猫
2024年4月25日から約2カ月にわたってSTUDIO 894で開催された、イラストレーター・福田利之さんの展覧会「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN manekineko/招き猫」は、大盛況のうちに幕を閉じました。この展覧会は、福田さんと中外陶園による初の動物立体作品プロジェクト「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN」を記念して行われたもので、会場には猫が主役の原画作品のほか、プロジェクト第1弾となる2つの招き猫がお披露目されました。
長年憧れ続けた立体作品への挑戦
――福田さんといえば、2022年に描いた「アドベンチャーワールド」(和歌山)の122種類の動物のイラストが大きな話題になりましたが、今回のプロジェクトもスウェーデン語で「福田利之の動物シリーズ」を意味する「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN」と名付けられました。以前から動物で立体作品を作りたいという思いはあったのでしょうか?
そうですね、僕は動物作品を数多く手がけたスウェーデンの陶芸家、リサ・ラーソンさんの古い作品をコレクションしていて、生物の立体作品には憧れがありました。また、自分の描く平面のイラストが立体になったらどうなるのかなという興味もありましたが、一人ではできないので難しいなと思っていたんです。だから、今回のプロジェクトは、僕にとっても大きなチャレンジといえますね。
――プロジェクトが始まる前に、中外陶園の工房などもご覧になったとお聞きしましたが、どのような印象を受けましたか?
実は瀬戸を訪れるのは30年ぶりくらいなんです。そこで中外陶園の工房などを見せてもらったのですが、スタッフの皆さんが気持ちよくものづくりができる環境が整っていると感じました。また伝統的なものづくりをしながら、新しい感性もとても大事にしていることが分かって、それも今回のオファーを受けた理由の1つになっています。
イラストの絶妙なニュアンスも再現
――プロジェクト第1弾となる2つの招き猫ですが、どちらも従来の招き猫のイメージとは異なりますね。
最初に中外陶園から「福田さんが思う招き猫を描いてください」と言われたので、一旦、伝統や常識などは置いて、僕の作りたいものを考えました。「親招き子招き/oyamaneki komaneki」は、親猫と子猫がセットの招き猫はあまりないと思ったので提案しました。親と子で掲げている手が違うので、「お金」も「人」もどちらも招いてくれるし、さまざまなシーンで喜んでもらえるんじゃないかなと思っています。「お餅ちゃん/omochichan」は、謙虚に福を招き入れるイメージにしたいと思ったので、顔を少し俯かせた招き猫にしました。
――「お餅ちゃん/omochichan」のフォルムは独特ですね。中外陶園のスタッフも驚かれたのではないですか?
イラストを送ったら「一般的な招き猫は正面を向いていますが、これでいいですか?」と言われました(笑)。そう言われるだろうなとは思っていたので、この形がいいんですと伝えました。
――福田さんが描く動物たちは、どちらかというと少しデフォルメされたイメージがありますが、「お餅ちゃん/omochichan」はそれらとはまた違って、とてもシンプルですね。
それは僕が“置物を作る”ことを意識していたのもありますが、もう1つ、中外陶園とイラストレーターのてらおかなつみさんのコラボレーション作品を拝見したことも影響しているかもしれません。てらおかさんの作品の手触りや、手に持ったときの感覚がすごくよくて、あんな感じで僕なりの招き猫ができたらいいなと思ったんです。そうしたら、自然とシンプルな形になりました。ただ立体感の素晴らしさは絶対に表現したかったので、顔の角度など細かいリクエストはたくさんしました。でも、初期の試作品の段階で、僕の理想の形に仕上がっていましたね。
――「親招き子招き/oyamaneki komaneki」の制作もスムーズに進んだのでしょうか?
「親招き子招き/oyamaneki komaneki」は、僕のイラストに求められる細やかさや複雑さ、ギミックさを表現しつつ、背筋がすっと伸びた瀬戸の伝統的な招き猫のイメージを再現しました。あとは、親猫と子猫がそれぞれ独立して成り立つようにしたかったのですが、それも中外陶園の皆さんが上手に表現してくれました。
瀬戸の魅力を再発見できる作品づくりを
――福田さんはこれまでもさまざまな企業とコラボレーションをしていますが、ご自身のイラストを第3者に託すことについてどのように感じていますか?
僕はチームで仕事をするのが好きなんです。誰かに任せることで、さらにおもしろさが増すことはたくさんあるので。今回のコラボレーションも、中外陶園とフォルムや色などを相談しながら進めてきましたが、僕が言葉や絵で伝える微妙なニュアンスを的確に汲み取ってくれたし、僕が迷ったときには背中を押してもらうこともありました。だから、僕はストレスもなく、ただおもしろくて、楽しい仕事でした。
――2025年に「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN」の新たな作品も発表されると聞いていますが、どのような作品になりますか?
今回の招き猫の制作を経て、次はもう少し土臭くて、ワイルドな質感の動物たちを10体くらいリリースできたらいいなと思っています。「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN」では、毎回違うことに挑戦したいので、もしかしたら僕が土から形を作るかもしれないし、僕なりの表現ができたらいいなと思っているんです。そうすることで、“陶磁器で立体物を作るなら中外陶園“と言われるようになったら嬉しいし、多くの人たちに焼きものの街・瀬戸の新たな魅力が伝わり、日本のものづくりの聖地になったらいいなと思っています。
福田利之
1967年大阪生まれ。大阪芸術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、株式会社SPOON入社し、佐藤邦雄氏に師事。1995年、フリーランスでのイラストレーターとして活動を始め、エディトリアルや装画、広告、CDジャケット、絵本、雑貨などの制作に携わる。2022年に「アドベンチャーワールド」(和歌山)の動物122体のイラストレーションを描きおろし、園のエントランスやさまざまな媒体で展開中。2023年、プロダクトブランド「POSIPOSY」にデザイナーとして参加。大阪芸術大学客員教授、大阪芸術短期大学特任教授。
福田利之オフィシャルサイト
https://to-fukuda.com
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