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2024.10.04
#コラボレーション

Interviews Vol.05 tupera tuperaさん

日常にそっと寄り添う小さな招き猫

STUDIO 894のオープン1周年を記念し、9月4日からスタートした「tupera tuperaの寄り添い招き猫 展」。中外陶園とは2021年から十二支飾りのプロジェクトが進行中のtupera tuperaですが、この展覧会では新たに招き猫がお披露目されました。そこでtupera tuperaの亀山達矢さんと中川敦子さんに、新作の招き猫や人気の十二支飾りの制作の裏側をお聞きしました。

インテリアに彩りを添える十二支飾り

――2021年の丑年から十二支飾りプロジェクトがスタートしましたが、最初にオファーを受けたときはどのように思いましたか?

tupera tupera 亀山さん(以下、亀山) 僕らは絵本のイメージが強いですが、もともとは手作り雑貨の販売から始まったユニットで、今でもアパレル雑貨や文具など、いろいろな商品をコラボレーションの形で作っています。だから、最初にお話しを聞いたときは『僕たちが欲しい十二支飾りが作れる!』と思って嬉しかったです。

tupera tupera中川さん(以下、中川) ただ、せっかくの十二支飾りなのに丑からのスタートで、「1年前に声をかけてくれたら、子から始められたのに~」みたいな話にはなりましたね(笑)。

亀山 それは今でも言われますが(笑)、タイミングだから仕方ないですね。でも、丑の十二支飾りは、僕らの作品の中でもひと際大きな反響がありましたし、何より、喜んでくれる人がたくさんいたので嬉しかったですね。


――十二支飾りはtupera tuperaとして初の陶器による立体作品だと聞いていますが、どんな点にこだわりましたか?

亀山 一般的に十二支飾りはその年のお正月に飾るイメージですが、僕らが作る十二支飾りは、日常の中で年中飾っておきたくなるようなものにしたかったんです。縁起物らしく形も末広がりにしました。

中川 色や柄は、その動物の特徴とその環境に合った草花などを組み合わせて考えています。本来は、瀬戸の染付らしい表現がよかったのかもしれませんが、私たちの作品は貼り絵で表現していくので、そこはあえて筆跡を残さず、隅々まできっちり塗ってほしいとお願いしました。

亀山 最初は12年って長いなと思いましたけど、あっという間ですね。スタートの時点で12体のデザインやカラーはおおよそ決めているのですが、この後、午や申、亥といった茶系の動物たちが控えているので、どこで茶色を使うかが悩ましいところです。皆さんには期待していてほしいと思います(笑)。

多くの発見と刺激をもたらした「招き猫ミュージアム」

――2022年に初めて中外陶園の工房を訪ねたそうですが、実際に絵付けの様子などをご覧になっていかがでしたか?

中川 ひとつひとつのパーツが作られる過程や、焼成前後の色の変化が分かって面白かったです。しかも、職人さんがそれぞれの過程で愛情を込めて作っていましたし、それをオリジナルとして量産していることもすごいと思いました。

亀山 モノづくりの現場を見るのは、同じ作り手としても興味があります。だから、僕は絵付けの筆を見るだけでもワクワクしました。確か、そのときに『次は招き猫を作ろう』という話になって、「招き猫ミュージアム」を見学させてもらったんです。

中川 「招き猫ミュージアム」には、よく見る招き猫だけではなく、もっとゆるくて変な顔の招き猫もありましたし、装飾もいろいろあって…。招き猫って面白いと思いました。

亀山 そこで、瀬戸の招き猫は“頭が小さく、すらっとした細身の猫背”だと教えてもらって。帰りの車の中で、早速、二人でイメージを話し合ってみたら、お互いに考えていた方向性が同じだったのでびっくりしました。

中川 これまで中外陶園ではたくさんの招き猫を作っています。その中で、tupera tuperaとしてどう作るか。わが家も新築祝いで招き猫をいただいたことがあるのですが、やっぱり縁起物って貰うと嬉しいんですよね。だから、今回は招き猫のイメージから外れすぎず、tupera tuperaらしさをきちんと表現できるものにしようと話し合いました。

小さな招き猫に凝縮したtupera tuperaの世界

――最初にラフ案を4つ出したとお聞きしています。それがひとつの形になるまで、何度も中外陶園とやりとりを重ねたそうですが、具体的にどのような点を調整したのでしょうか?

亀山 今回は中外陶園の中でも意見が割れたと聞いていますが、最終的に2つのラフ案のいいところを組み合わせた形になりました。正面は平らですが、横から見ると猫背になっています。これは瀬戸の招き猫を意識したフォルムです。

中川 でも、実際に立体になると微妙な間が生まれたんです。絵では気にならなかった腕の付け根が意外としっくりこなくて…。正面に腕の付け根の丸みをつけるのか、それとも横で丸みをつけるのか、それだけで印象は全然違います。図面やサンプルを撮った写真が届いたら、そこに赤字を入れて、また試してもらうというやりとりを3、4回ほど繰り返しました。これまでも着ぐるみやパペットなどを作りましたが、やはり最初のイメージと立体になったときの違和感は出てくるので、そこはまだ私たちがイメージしきれていないんだと思います。

亀山 立体の難しさ、ですね。でも、そこは中外陶園の皆さんが丁寧に教えてくれます。何度もやりとりを重ねても、お互いの得意分野がきちんと住み分けできているので、その過程は心地いいですし、とても楽しい。モノづくりにはそれが重要じゃないかなと思います。

中川 最初のころと比べると、中外陶園の方から提案してくれることも増えたような気がしますね。たとえば、十二支飾りはある程度の凸凹は指示しているのですが、中外陶園から『ここにも凹凸があった方がいい』と言ってくれるし、台形のおさめ方や高さなど細かい点で調整してくれるので、制作そのものがとてもスムーズになったと思います。今回の招き猫の制作は、十二支飾りが順調だったことも大きいですね。

寄り添うことで+αの存在感を放つ

――初めて招き猫の試作品を見たときはどう思いましたか?

亀山 僕はめちゃくちゃテンションが上がりました(笑)。でも、中川はそうでもなかったみたいです(笑)。というのも、僕らの仕事はお互いに話し合うことで方向性が定まってくるのですが、その中でどちらか一方のウェイトが高くなる場合があるんです。今回の招き猫や十二支飾りに関しては、中川のウェイトの方が高いので、僕よりもこだわりが強い。特に今回は色や柄にかなりこだわっていました。


中川 もともと色のこだわりは強いかもしれませんが、今回は2体が並んだときの色合わせがどうしても譲れなかったんですよね。原画では、それぞれの印象は違うけど、並んだときはセット感が出る色合わせの塩梅を、かなり吟味して選びました。でも、実際にはどうしても出せない色があって、イメージ通りの色にはならなかったんです。スケジュール的に余裕はなかったのですが、最後まで粘って調整してもらいました。その結果、納得のいく色合わせになったので、妥協しなくてよかったと思っています。

亀山 今回の招き猫には中川のこだわりが凝縮されていると思います。

中川 最初は顔が難しいかなと思ったんです。目や鼻の位置が1㎜でもずれると印象が変わってしまうので。でも、セカンドサンプルの時点でぴたっと合いましたね。

――今回の招き猫は”寄り添い招き猫”と名がついていますが、そこの込めた想いをお聞かせください。

亀山 雑貨は人が身につけたり、生活の中にあることで成り立ちます。絵本も同じで、人が読むことで成立するものです。この招き猫も単体でも成立しますが、壁に付けたり、本棚の中に置いたり、グリーンのそばに置いたりと、いろいろなものと寄り添うことでプラスαの存在になると思います。買ってくれた人(絵本の場合は読者)がどうアレンジするか、その余地を残したモノづくりが僕たちらしいと思います。

――どんな方に手にしてほしいですか?

亀山 どんな方でも。コンパクトなので、ちょっとしたすき間でも飾れますから。

中川 それこそ、新築祝いや開店祝いにもいいですし、結婚のお祝いに贈ってもいいですよね。

亀山 黒猫と三毛猫をそれぞれサイズ違いで用意しているので、金運が欲しい人は右手を挙げた大きなサイズの招き猫、人脈が欲しい人は左手を挙げた大きなサイズの招き猫と、ご自分の好みに合わせて大きさや組み合わせを変えて飾ってもいいと思いますよ。

――STUDIO 894で10月27日まで開催される「tupera tuperaの寄り添い招き猫 展」は、これまでの制作過程が垣間見える内容になっていますね。

亀山 そうですね。僕らの展覧会の多くは完成した作品が並びますが、今回は原画だけではなく、スケッチや図面、招き猫の原型も展示されているので、ひとつの作品が出来上がるまでのプロセスを楽しんでいただけると思います。決して、一筋縄ではいかないモノづくりの醍醐味を感じ取っていただけると思うので、その辺りもぜひ楽しんでほしいなと思いますね。

tupera tupera
亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、様々な分野で幅広く活動している。 著書に「かおノート」(コクヨ)「やさいさん」(学研教育出版)「いろいろバス」(大日本図書)「うんこしりとり」(白泉社)など多数。海外でも様々な国で翻訳出版されている。NHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当。絵本「しろくまのパンツ」(ブロンズ新社)で第18回日本絵本賞読者賞、Prix Du Livre Jeunesse Marseille 2014 (マルセイユ 子どもの本大賞 2014) グランプリ、「パンダ銭湯」(絵本館) で第3回街の本屋が選んだ絵本大賞グランプリ、 「わくせいキャベジ動物図鑑」(アリス館)で第23回日本絵本賞大賞を受賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。

tupera tupera オフィシャルサイト