⼀覧にもどる
2025.11.07
#インタビュー

Interviews Vol.10 福田利之さん

個性あふれる寒い国の生き物たちが大集合

2024年、中外陶園とのコラボレーションによって、従来のイメージを覆す招き猫を手がけたイラストレーターの福田利之さん。その「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN / manekineko」の制作から早くも1年、シリーズ第二弾となる立体作品が登場しました。今回のテーマは「寒い国の生き物たち」です。第一弾の招き猫以上に福田さんらしさが凝縮された、愛らしい7体の生き物たちが誕生した背景やこだわりなどを福田さんにお聞きしました。

念願の動物シリーズがついに登場

――新たに誕生したシリーズ第二弾は、「寒い国の生き物たち」がテーマです。このテーマを選ばれた理由をお聞かせください。

僕が中外陶園とのコラボレーションで一番に望んだことは、継続的な取り組みでした。だから、招き猫の制作段階から、次は動物を主役にした立体作品を作りたいと話していました。これは、僕がスウェーデンの陶芸家・リサ・ラーソンさんが手がけた『グスタフスベリ』の動物シリーズが好きだったからです。ただ、テーマは絞った方がいいと思っていたので、僕が普段からシロクマやウサギといった動物をよく描いていたこと、そして、実際に北欧で可愛らしいウサギやキツネを見て、『いつか形にしたい』という思いがあったことから、「寒い国の生き物」と設定しました。

――シロクマやホッキョクキツネ、ホッキョクウサギ、ペンギンといった寒い国を代表するような動物がある一方で、イッカクという珍しい動物も登場していますね。

そうですね。当初、中外陶園からは『イッカクの牙は、焼成すると先端が変形しやすいため、制作が難しい』と言われていたんです。だから、僕も一度は諦めたのですが、その後『やっぱりやりましょう』と言ってくれて。牙の状態がギリギリ保てる太さと長さに調整してくれました。メジャーな動物ではない上、制作も難しいにも関わらず、挑戦してくれた中外陶園の心意気が嬉しかったですね。

個体差が魅力となる立体作品に挑戦

――元となる原画は立体化を意識して描かれているのですか?

それはないですね。なぜなら、立体化を意識しすぎると、デフォルメなどにためらいが出てしまい、自由に表現できない可能性があるからです。また、招き猫を制作した経験から、中外陶園は僕が自由に描いた絵をクオリティ高く立体化してくれることは分かっていたので、今回も僕の描きたいように描かせてもらいました。

――前回の招き猫と制作過程で違いはありましたか?

中外陶園は、普段、完成度の高い製品を均一に作ることを重視しています。でも、僕は少ないロットの中でいかに希少性を出していくかが、今回のコラボレーションでは重要だと考えました。形や色の多少のブレも“一点もの“らしさにつながり、むしろ魅力的だと思ったのです。だから、あえて一つひとつに個体差が生まれるような立体作品を作りたいと伝えました。それが今回の一番のこだわりだったかもしれません。そのこだわりを中外陶園と共通認識として持てたことが、前回の招き猫との大きな違いだと思います。

――そのこだわりはどこから生まれたのでしょうか?

僕は、きれいに整った現行品よりも、少しいびつなくらいのビンテージの方が好きなんです。だから、僕も30年後にビンテージとしてコレクティブされるようなものを作りたいと思いました。今回は、中外陶園の工房が製作できる範囲で、僕のその要望を叶えてもらいました。

期待を上回る仕上がりに大満足

――福田さんの要望である個体差がそれぞれ感じられるような工夫とは、具体的にどのようなものですか?

今回は、ビンテージ感を出すため、特に釉薬や技法にこだわってもらいました。たとえば、釉薬は焼成後に自然な色の濃淡やムラがでる、鉄粉の入った味わいのあるものを使用しています。また、シロクマの胸元の溝の部分に色を残すため、凹み部分に深緑色の釉を塗り、はみ出したところを一度拭き取ってから、再び釉薬をかけています。素地に“いぶし”と呼ばれる絵付けの一種を施してもらいました。ほかにも、トナカイの背中や尻尾、ペンギンの背の部分には、原型の段階で“すじ彫り”という加工を施してもらっています。これによって、溝部分に絵の具が溜まり、それが線のように見えるんです。実は一体一体にとても手のかかる作業が施されています。

――出来上がりをご覧になって、どのように感じましたか?

今回も僕の想像以上の素晴らしい仕上りでした。細かい修正点はありましたが、最終的には個体差がある方が望ましいと思っていたので、『あまり細かいことは気にしないでほしい』とお願いしたほどです。

――それでは、納得の仕上がりということですね。

そうですね。中外陶園の挑戦と僕の現時点での考えの、ちょうどいいバランスでよい作品が作れたと思います。将来的には、僕の好きなスウェーデンやフィンランドの方たちに、これらの作品を見てもらい、その反応や評価を直接確認できたら嬉しいですね。

――少し気が早いのですが、次回の構想はすでにあるのでしょうか?

無限にありますよ(笑)。僕はずっと作り続けていきたいですし、その中で、今回のような工夫や挑戦ができたらいいなと思っています。

立体ならではの魅力を楽しんで

――今回も新作の発表を兼ねた個展『TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN「寒い国の生き物たち」』が、STUDIO 894で11月1日(土)から12月22日(月)まで予定されています。どのような内容になりますか?

昨年と同様に、新作の立体作品や原画を展示するほか、11月22日(土)にはトークイベントも予定しています。また、同日に僕の友人であるミュージシャンの山田稔明さんのライブも行う予定です。彼とはもう10年以上の付き合いになるのですが、以前から中外陶園の招き猫が気になっていたというほど無類の猫好きなので、きっと楽しいライブになると思います。

――改めて、中外陶園とのコラボレーションでどのようなことを感じていますか?

中外陶園は、新しいことや難しい課題にも前向きに取り組んでくれるので、僕らクリエイターの立場から見ても、その姿勢は安心できますし、信頼できますね。

――最後に福田さんのファンの皆さんへメッセージを。

僕が絵を描く上で一番の目標としていることは、皆さんの家庭や会社といった日常に僕の絵があることです。立体作品には机の上に置いて愛でる、あるいは、そこからインスピレーションを得るといった楽しみ方が、より強くあるような気がしています。今回の「寒い国の生き物たち」も、皆さんの生活を彩る小さな存在として、手に取ってもらえたら嬉しいです。


福田利之
スピッツのCDや町田そのこ「52ヘルツのくじらたち」カズオイシグロ「クララ とお日さま」の装画、絵本、雑貨制作等、様々なジャンルの仕事を手がける。主な著書、絵本に「福田利之作品集3」「福田利之といくフィンランド」(玄光社)「あのこはね」(ポプラ社) 「くりさぶろう」(ケンエレブックス)堀込高樹との共著「あの人が歌うのをきいたことがない」(888 books) 高橋久美子との共著「赤い金魚と赤いとうがらし」甲斐みのりとの共著「ふたり」(ミルブックス)山下哲との共著「ぼくはうさぎ」(あかね書房)池田朗子との共著「ねずみのシーモア」(あかね書房)目黒実との共著「祈る子どもたち」(アリエスブックス)藤本智士との共著「baby book」(コクヨS&T)など。
2018年、吉祥寺美術館にて大規模な展覧会を開催。 詳細
2024年、中外陶園とのコラボレーション「TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN」がスタート。

https://to-fukuda.com/
Instagram:@tofu4cyome/

11/1(土)~12/22(月)開催 TOSHIYUKI FUKUDA DJURSERIEN「寒い国の生き物たち」詳細はこちらから