
Interviews Vol.11 はしもとなおこさん(前編)
陶板に描き出した独創的なアートの世界


画家であり、テキスタイルデザイナーである、はしもとなおこさん。2024年に丹波焼の絵付けを経験したことで、自身が描く絵とやきものとの相性の良さを認識し、今回、初めて磁器の陶板に直接絵付けを施した作品を中外陶園と協働制作しました。その作品は、繊細さと力強さの両方を備えた線が生き生きと躍動するとともに、釉薬の巧みな使い分けによって、陶板の新たな魅力を引き出しました。そこで、中外陶園の鈴木社長とともに、はしもとさんに創作活動への思いなどをお聞きしました。
絵も布もシンプルな表現を目指す

―はしもとさんは2011年に独立されましたが、その前はどのようなお仕事をされていたのですか?
はしもとなおこさん(以下、はしもと) 大学で染色を学んでいたこともあり、卒業後はインテリアデザイン会社に就職し、テキスタイルの企画に携わりました。独立後は、テキスタイルの仕事と絵を描く仕事の二つを軸に活動しています。
―はしもとさんが絵を描く上で、もっとも意識していることは何でしょうか?
はしもと シンプルなものこそ飽きが来ず、長く愛されると思うので、極力、余計な要素を削ぎ落として表現することを心がけています。この感覚は、テキスタイルのデザインで培われてきたかもしれません。


―普段はどのようなプロセスで絵を描かれるのですか?
はしもと 私は写真からインスピレーションを受けることが多く、直感的にその被写体をシンプルに捉えた絵が頭に浮かぶんです。それをキャンバスの中でどのように構成するかという視点で、絵を描いています。一方、テキスタイルデザインは、自由に筆を走らせたドローイングの中から面白い線を編集していくイメージなので、そこが絵を描くときとの大きな違いです。
ものの見方を大きく変えた工房見学

―今回、中外陶園がはしもとさんと陶板作品を協働制作するに至った経緯を教えてください。
中外陶園・鈴木社長(以下、鈴木) STUDIO 894で開催された企画展で、はしもとさんの作品を拝見する機会があり、「いつかご一緒したい」と考えていました。今回、満を持して陶板制作のオファーをさせていただいたのは、陶磁器ではしもとさんの作風が持つ魅力を表現するなら、磁器の陶板がもっとも適していると思ったからです。
はしもと ありがとうございます。陶器の陶板に比べて、磁器の陶板は色を鮮やかに表現できる点に魅力を感じていました。そのため、以前から磁器陶板への絵付け制作に興味があり、オファーをいただいたときはとても嬉しかったです。

―協働制作の第一歩として、はしもとさんは中外陶園の工房を制作前に訪れたそうですが、現場を見られてものづくりの捉え方に変化はありましたか?
はしもと まず招き猫がたくさんあることに驚きました。そして、とても静かな環境で、黙々と絵付けをしている職人さんたちの姿がとても美しくて、まるで一つひとつの招き猫に祈りを捧げているかのように感じたんです。私がこれまで単なる置物だと思っていた招き猫の背景には、たくさんの方の“気”が宿っていることに感銘を受けました。
鈴木 職人たちの姿を見て、はしもとさんが私たちのものづくりにかける思いを汲み取ってくださったのなら、作り手としてこれほど嬉しいことはないですね。
はしもと 私も作品を制作するときは、自分の“気”が作品に流れ込んでいく感覚があって、そのせいか、描き終わった後はいつもへとへとに疲れてしまうんです。
鈴木 なるほど。はしもとさんの作品に宿る圧倒的なエネルギーは、制作中に生まれているんですね。
はしもと 事前に工房を見学させてもらったことは、これまで知ることのなかったものづくりの背景に触れる貴重な機会でしたし、今後の制作活動への活力にもなりました。
あふれる思いを筆に託して描く


―はしもとさんが絵付けをされている姿を見て、鈴木社長はどのような印象を持ちましたか?
鈴木 はしもとさんの絵を描くときの集中力に驚きました。何かが憑依したかのような迫力があり、下描きをせず、一気に描き上げる姿に圧倒されました。その集中力が、研ぎ澄まされた線となって作品に現れるんですね。
はしもと 私は下描きをすると、余計な線に引っ張られてしまったり、思い切った線が描けなくなったりするんです。私の絵を描くプロセスは、書道の感覚に少し近いかもしれません。
鈴木 「書道」と聞いて納得しました。今回、はしともさんから事前に「この筆は使えますか?」と質問があったのですが、はしもとさんにとって、筆はとても大切なものなのですね。
はしもと そうですね。筆は自分の力がすべて伝わるので、私の制作活動において、とても大切なものです。今回、たまたま瀬戸市内の絵具屋さんで、普段絵を描くときに愛用している筆と同じ形状の、やきもの用の筆を見つけたんです。使い心地もほぼ変わらなかったので、今回はその筆を使って描きました。


―今回の陶板制作では、どのようなモチーフを描かれましたか?
はしもと 普段からよく描いている植物や動物をモチーフにしました。もともと植物は花瓶とセットで描くことが多いのですが、今回もいつもの絵と同じように、陶板の上で生け花をするような感覚で描きました。あと、瀬戸市は招き猫の産地でもあるので、普段より猫を多く描いています。今回、呉須で描くのは初めてでしたが、以前丹波焼の絵付けをしたときの手の感触がガイドとなり、納得のいく作品に仕上がりました。
【後編に続く】
テキスタイルデザイナー / アーティスト
はしもとなおこ
金沢美術工芸大学 工芸科卒業。2011年よりフリーランスのテキスタイルデザイナー、また主に絵画の制作を行うアーティストとして活動し、国内外での展示や、メーカーへの図案提供など活動の幅を広げている。日々の中でふと心を軽くしてくれるモノをつくるべく、線や形、色を探し続けている。
はしもとなおこオフィシャルサイト
https://www.hashimotonaoko.com/
Instagram
@hashimoto___naoko
1/10(土)~2/23(月・祝)開催 はしもとなおこ 個展「 call 」詳細はこちらから



