
Interviews Vol.14 ミロコマチコさん(前編)
自然界のはざまでうごめく、架空のいきものを描く

画家として、そして絵本作家として、生命力あふれる独自の表現を続けてきたミロコマチコさん。現在の拠点である奄美大島での日々は、かつて描いていた動物や植物から、目に見えない気配や自然のうごめきそのものを描く表現へと変容を遂げています。今回、中外陶園との2回目となるコラボレーションが実現し、陶板作品や念願のプロダクトである蚊やり器などが誕生しました。そこで、ミロコさんに現在の創作に対する心境や、新たに手がけた陶板作品の舞台裏、さらにはプロダクト製作の背景をお聞きしました。
創作意欲を掻き立てる、身近な自然の営み


―奄美大島に拠点を置かれ、島での日々を過ごす中で、ミロコさんが見つめる対象や、受け取る感覚に何か変化はありましたか?
ミロコマチコさん(以下、ミロコ) 私の家の前は、海から月が昇り、同じ海から朝日が昇る場所なんです。この景色を毎日見られることは、私にとってこの上なく特別なこと。こうした環境に身を置いていると、さまざまな「はざま」をより敏感に察知するようになってきました。海と空の間、昼と夜の間、夜と朝の間というように。そこでは鳥や虫たちの気配が、まるで選手交代をするようにガラリと入れ替わります。その瞬間、目には見えないけれど、空を浮遊する巨大ないきもののような気配を感じるんです。島での暮らしを重ねることで、刻一刻と変わる自然の営みをより強く、切実なものとして受け取れるようになったのかもしれません。その中で、今、私が表現したいのは、この変化し続ける境目のエネルギーなんです。
―瀬戸焼置物が誕生した2024年のインタビューでは、「奄美の自然を架空のいきものとして表現したい」と語られていました。あれから約1年半、創作への向き合い方や心境に変化はありましたか?
ミロコ 自然から受け取るうごめきを架空のいきものとして捉えて表現したい――その根底にある思いは変わっていません。ただ、日々変わる自然を五感で感じていると、心に色濃く残った印象から、描きたいものが次々と生まれてくるんです。たとえば、水が張られた田んぼで稲穂がさわさわと揺れているのを見ると、その合間をくねくねと蛇が渡っているような気がして、その瞬間を描き留めたいと思う。こうした新たな発見が日々あり、私の中で表現したい世界をさらに広げてくれています。

―それほどまでに奄美での暮らしが創作に大きく影響しているということですね。
ミロコ そうですね。2年前からは稲作のお手伝いも始めたのですが、日々見ているとタニシがどこに集まるのかといったことも分かるようになりました(笑)。かつて東京で部屋に籠って描いていたころとは全く違い、自然と密に関わる生活をしているからこそ、その気配をより強く感じるのだと思います。
言葉と絵が補い合うことで物語が生まれる

―今回の陶板作品は、普段のミロコさんの作風がそのまま描かれているように感じました。実際に描く上で意識したことはありますか?
ミロコ 前回の制作時よりも、普段の絵を描く感覚にぐっと近づいたような気がして、その分、自分の思いをよりストレートにぶつけることができました。描いたのは、島の目に見えない気配を託した、いきものたちの姿です。私は絵を鑑賞するとき、つい「このいきものはどんな動きをするのか」「この背景には何があるのか」と、想像を膨らませてワクワクしてしまいます。今回の陶板をご覧になった方にも、いきものたちの動きや背景を想像しながら楽しんでもらえたら嬉しいです。

―ミロコさんの作品には、いつも印象的なタイトルが付いています。タイトルへのこだわりをお聞かせください。
ミロコ もともと絵本作家を目指していたこともあり、私の中には「言葉で尽くせない部分を絵が補い、絵で表現しきれない部分を言葉が伝えてくれる」という感覚があります。だから、私にとってタイトルもとても大切なものなんです。スケッチにはその瞬間に浮かんだ情景や思考を言葉で書き留めていて、作品が完成した後、その記憶の断片を辿りながら一番しっくりくる言葉をタイトルとして選んでいます。
いきものを躍動させる上絵への挑戦

―今回の陶板作品では、初めて上絵付けにも挑戦されましたが、下絵付けとの違いや新たな発見などはありましたか?
ミロコ 下絵付けは色を重ねて塗り変えることができないので、完成した絵を頭の中で思い描きながら、そこから逆走している感覚があります。それに慣れない部分もありますが、逆に新鮮で面白いなと感じています。一方で上絵付けは、普段の制作と近い感覚で色を重ねられるので、思い切りよく筆を動かすことができ、表現の幅がぐっと広がりました。もちろん、焼成後の色のグラデーションなど想像と違うこともたくさんありましたが、思い通りにいかない部分こそがやきものの魅力だと感じています。
―その中で、今回はひし形の陶板作品もありますが、どういう意図で制作されたのですか?
ミロコ 普段、キャンバスを斜めにして描くという発想はなかなかありません。ですが、陶板は単に絵として飾るだけでなく、たとえば、建具やドアに埋め込むなど、家の一部として空間に溶け込める面白さがあります。そのとき、正方形よりもひし形の方が、空間との相性が良いような気がしたんです。実は前回の制作を終えたときから、「次は必ずひし形にしよう」と心に決めていました。完成した作品を見て、改めてひし形ならではの収まりの良さと、空間へのなじみやすさを実感しています。


【後編に続く】
画家
ミロコマチコ
1981年⼤阪府⽣まれ。画家。いきものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催。絵本『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で第18回日本絵本賞⼤賞を受賞。『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で第45回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくのふとんはうみでできている』(あかね書房)で第63回小学館児童出版文化賞をそれぞれ受賞。ブラチスラバ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)で、『オレときいろ』(WAVE出版)が⾦のりんご賞、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)で⾦牌を受賞。その他にも著書多数。第41回巌谷小波文芸賞受賞。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。2016年より、展覧会『いきものの音がきこえる』が、2020年より、展覧会「いきものたちはわたしのかがみ」が全国美術館を巡回。自然の動きに耳を澄ませながら、⾒えないものの気配を感じとるように制作をしている。
HP:https://mirocomachiko.com/
Instagram:@mirocomachiko



