
Interviews Vol.14 ミロコマチコさん(後編)
自然界のはざまでうごめく、架空のいきものを描く

活動拠点である奄美大島での暮らしを通じ、身近に感じる自然の営みを生命力あふれる「いきもの」として、作品に投影している画家のミロコマチコさん。前編では、現在の創作への向き合い方や、新たに手がけた陶板作品への思いをうかがいました。続く後編では、中外陶園との初のコラボレーション時から構想を練っていた蚊やり器の完成を受け、その製作背景を語っていただきます。また、新柄が加わった猫の瀬戸焼置物や、マグカップなどのプロダクト展開についてもお聞きしました。
暮らしに溶け込む、新プロダクトの誕生

―前回のコラボレーション時から検討されていた蚊やり器がついに完成しました。どのような点にこだわられたのでしょうか?
ミロコマチコさん(以下、ミロコ) 奄美はとにかく蚊が多いので、蚊やり器はずっと作りたいと思っていました。ただ、なかなかしっくりした形にならなくて……。そこで改めて「自分が庭や玄関に置きたいものは何だろう」と考えたとき、自宅で使っている蚊やり器のパカッと開く蓋を見て、「これが甲羅だったら面白いかも!」と閃き、カメの形に辿り着きました。まずは私が描いた絵をもとに型を起こしてもらい、それから私自身の手で曲げたり削ったりして、あえていびつさが生まれるように調整を重ねました。ただ、最初は原始的で素朴なものを目指していたのですが、いざ試作してみるとどこか生々しくて、このまま進めるのは難しいなと感じて。そこで、思い切ってカラフルな方向へシフトすることにしたんです。蚊やり器の穴の配置や甲羅の柄のバランスを考えていくうちに、「ホシガメをモチーフにしたら絶対にかわいい!」と気づきました。実は、私はカメが大好きで、なかでもホシガメは憧れの存在なんです。
―色の組み合わせやディテールへのこだわりをお聞かせください。
ミロコ 甲羅の色は、試行錯誤を繰り返しました。陶磁器用の絵具は落ち着いた発色のものが多く、そこに金色の縁を加えると、どことなく手鞠を思わせる「和」の雰囲気が強くなりすぎてしまって。今回は潔く緑と青の2色に絞り、そこに少し落ち浮いた雲母金を組み合わせることにしました。実際にSTUDIO 894の庭に置いて、近くから見たり、遠くから眺めたり(笑)。自然光の下でどう見えるかまでしっかり確かめて、このカラーリングに落ち着きました。甲羅に開けた煙出しの穴もよく見ると正円ではなく、少しいびつな形にしています。そのいびつな穴の周りには、本金を施してもらいました。本当に細かい点までこだわって作ったので、どこに置いてもかわいいなと思いますし、とても愛着を感じています。

色の質感や柄で広がる、猫の置物の新たな魅力

―猫の置物には、新たに黒猫とサバトラ猫が加わりました。この2つの柄を選んだ理由をお聞かせください。
ミロコ 私自身が黒猫を飼っていて、いつか黒か白で作りたいと思っていました。マットな黒は質感もよく、シックなインテリアにもなじむ佇まいになりました。この黒猫は「くらやみ」と名付けました。サバトラ柄は友人の飼い猫がモデルです。流れるような線の模様に風を感じ、その風が背中の点々模様を渦に巻き込んでいくようなイメージから、名前は「つむじかぜ」としました。前回の猫の置物も自然界にある言葉から名付けているのですが、その中でも「風」にはさまざまな情景を表す言葉があって楽しいですね。


―これらが、どのような存在になってほしいと思いますか?
ミロコ 前作の猫の置物を手に取ってくれた方たちは、「この子はやさしい子だな」「少しそっけない感じが好き」というように、それぞれの猫たちに宿る個性を自由に想像して楽しんでくれているのではないかなと思っています。だから、今回の猫たちも同じように楽しめて、皆さんの日々の生活に寄り添う存在になってくれたら嬉しいです。


―個展の開催に合わせて製作されたマグカップにも、ユニークな仕掛けがあるそうですね。
ミロコ スタッキング(積み重ね)できる仕様だと聞いたので、カップを重ねたときに上下で物語がつながったら楽しいだろうなと考えて、日の出を描いた「sunrise」、夕日を描いた「sunset」の2種類を作りました。2つのカップを重ねると空と海の情景が完成するようになっています。
個性豊かな「いきもの」が新たな物語を紡ぐ

―2026年7月3日(金)から始まる展覧会への思いをお聞かせください。
ミロコ 今回の陶板作品では、自然界のはざまにうごめく、いきものたちの世界を表現したいと考えていました。その中で、蚊やり器も星が刻まれた甲羅が空で、体が海、そしてその間が地平線のように見えて、そこから何か新しい物語が生まれそうな予感がしたんです。それが、今の私が表現したい陶板の世界とも響き合うと思ったので、展覧会タイトルを『カメがせおってるのは星たち』としました。それぞれの作品が共鳴して生まれるつながりを、ぜひ会場で楽しんでもらえたら嬉しいです。


―中外陶園とのコラボレーションも2回目となりましたが、新たな気づきなどはありましたか?
ミロコ 色のバリエーションの豊かさや無限の可能性を前にすると、慣れるということは全くなくて……。むしろ、難易度は増したように感じています。永遠に試作を続けられそうな中で、自分なりの落としどころを見極め、決断しなければならない。その難しさを痛感しました。実は、今回ピンクやブルーの猫の置物も製作したかったのですが、これも長く続く挑戦だと捉えて、次回の課題として心に留めています。
―最後に、ミロコさんにとって陶磁器の魅力とは?
ミロコ 陶磁器はずっと残っていくものだと思うんです。だから、いつの日か「この猫の置物、気づいたら昔からずっとうちにあるよね」と言ってもらえるような存在になれたら最高ですね。平面の絵を立体にする難しさや、やきもの特有の制約はありますが、それらも丸ごと楽しみながら、これからも長く愛されるものを作っていけたらいいなと思っています。

画家
ミロコマチコ
1981年⼤阪府⽣まれ。画家。いきものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催。絵本『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で第18回日本絵本賞⼤賞を受賞。『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で第45回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくのふとんはうみでできている』(あかね書房)で第63回小学館児童出版文化賞をそれぞれ受賞。ブラチスラバ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)で、『オレときいろ』(WAVE出版)が⾦のりんご賞、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)で⾦牌を受賞。その他にも著書多数。第41回巌谷小波文芸賞受賞。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。2016年より、展覧会『いきものの音がきこえる』が、2020年より、展覧会「いきものたちはわたしのかがみ」が全国美術館を巡回。自然の動きに耳を澄ませながら、⾒えないものの気配を感じとるように制作をしている。
HP:https://mirocomachiko.com/
Instagram:@mirocomachiko



