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2026.11.04
#インタビュー

Interviews Vol.16 塩川いづみさん(前編)

線が立ち上がり、光と影をまとう十二支

シンプルでありながら、どこか愛らしく味わい深い独自の表現で詩的な佇まいを紡ぎ出す、イラストレーターの塩川いづみさん。心地よい余白が、見る人の想像をそっと広げ、それぞれの自由な感じ方に寄り添うような穏やかな時間を与えてくれます。
今回、中外陶園とのコラボレーションにより誕生したのは、「十二支」をモチーフにした磁器製の壁飾り。平面の絵の延長として捉え直された立体表現、自らの手で試作を重ねたモックアップ、光と影のグラデーションを立ち上げていく制作プロセスを通じ、そぎ落とされたフォルムの奥に潜む静かな哲学に迫ります。

絵の延長として探る、立体表現への新たな挑戦

―今回、中外陶園からオファーを受けてから、どのようにアイディアを広げていかれたのでしょうか?

塩川いづみさん(以下、塩川) やきものはもともと興味深い素材だと思っていたので、お話をいただいたときは率直に「やってみたい」と思いました。ただ、普段は紙の上に平面のイラストを描く仕事が中心なので、最初は立体をどう作ればいいのだろうと全くイメージがわきませんでした。でも、日常のなかで模索していくうちに、自分が普段描いている絵に厚みを持たせるような形ならできるかもしれないと思いついたんです。そこから、立体を作るというよりは、壁に掛けたときに少し厚みがあって、平面と立体の中間にあるようなレリーフの表現に行き着きました。

―立体表現という挑戦に難しさはありましたか?

塩川 難しさというよりは、とにかく楽しさの方が大きかったです。平面のイラストと違って自由度が高く、選択肢が広すぎる分、自分の中で良し悪しがわからなくなってしまう懸念があったので、立体にあって平面にはない「光と影」に着目しました。色を使わず、光が当たったときの陰影で壁に線を描くような表現に挑戦してみようと。普段のシンプルなドローイングに近づけながら、凹凸に当たる「光と影」のラインだけでモチーフの輪郭が浮かび上がってくるような、そんな重みと軽やかさをあわせ持つ形を目指しました。

永い時間と寄り添う「十二支」というモチーフ

―数あるモチーフの中で、「十二支」を選ばれたきっかけは何だったのでしょうか?

塩川 初めて中外陶園さんの工房へ伺ったとき、十二支の置物がたくさん並んでいるのを目にしたんです。STUDIO 894ではtupera tuperaさんが手がけられた十二支が展示されていました。十二支は誰もが知っている昔からの定番モチーフですが、作る人によって表現の仕方がまったく違っていて、かえってすごく自由だなと感じました。すでに形やイメージが決まっているモチーフだからこそ、それをどうアレンジして自分らしく表現するかという面白さがあるなと思ったのがきっかけです。それに加えて、やきものについて知っていく中で、やきものは土に還らず、ずっと残り続けるというお話を伺い、その永い時間軸と、古来から現代の暮らしの中でずっと続いてきた十二支という存在に、深い親和性を感じたこともこのモチーフに決めた理由のひとつです。

―今回、ご自身でモックアップ(試作)を作られたとか。

塩川 紙の上に線を描くことはできても、立体にしたときにその線がちゃんと陰影として成立するのか、実際に作ってみないとわからないと思って。最初は紙粘土を使ってみたのですが、思うようにエッジが立たなかったので、プロ仕様の石塑(せきそ)粘土を買い足して手作業で形を探りました。この試作の作業が本当に楽しかったです。十二支の中でも特に寅は、かわいくなりすぎないようにどういう切り取り方をしようか決めるまでに時間がかかりました。フォルムをどこまで留めるか、その塩梅が難しかったです。

―完成した十二支の壁掛け飾りをご覧になってどう感じられましたか?

塩川 手作業で作ったモックアップのニュアンスをそのまま正確に再現してくださって、純粋にすごいなと思いました。自分が作ったものは、表面が少し波打ってしまったり、うまく形にできなかったりしたのですが、細部の精度が見事に整えられていました。完成形を見たときは「すごくいいな、やりたい感じになったな」と素直に思いました。私は、絵を描くときもそうなのですが、押しつけがましくならないようにすることを大切にしています。だからこそあえて作りこみすぎず、手に取ってくださった方が自由に思い入れやストーリーを重ねられるような余白を残しておきたいと思っています。

空間に添えて、自由に楽しむ

―空間に飾られたときの見どころや、おすすめの楽しみ方は?

塩川 形にあたる光の明暗で輪郭が見えるおもしろさや、壁に飾ったときに生まれる空間のリズムを楽しんでいただけたら嬉しいです。縁起物は単体で飾ることが多いと思うのですが、この壁飾りは好きなものを自由に組み合わせて飾ってもいいかなと思っています。飾る場所や気分に合わせて、空間のなかで心地よく見える組み合わせを探してみてほしいです。

―もしご自身がこの壁掛けをご友人に贈るとしたら、どの動物を選びますか?

塩川 干支だからと難しく考えず、相手の好きなものや関心にあわせて選びたいですね。たとえば編み物が好きな友人なら未(ひつじ)、ニワトリを飼っている方なら酉(とり)といったように、相手のことを思い浮かべながら選ぶ時間も楽しみたいです。私自身、作っている人の気持ちが入っているものからエネルギーをもらうことが多いので、この十二支も手に取ってくださる方の生活に寄り添えるような存在になってくれたらと思っています。


イラストレーター
塩川いづみ

長野県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。広告、書籍、雑誌、プロダクトのイラストレーションを中心に活動するほか、作品の展示発表も行う。主な作品集に『塩川いづみ作品集 ペン、鉛筆、ひと、動物、植物』(玄光社)、『春と修羅』(torch press)、『One』(パピエラボ)がある。

HP:http://shiokawaizumi.com
Instagram:@izumishiokawa