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2026.11.04
#インタビュー

Interviews Vol.16 塩川いづみさん(後編)

「12」がひらく静かな宇宙

十二支の立体制作から広がった思考は、夜空を彩る十二星座、そして宇宙をめぐる普遍的な「12」という数の物語へとつながっていきます。前編では、光と影の表情を確かめながら生み出された十二支の壁飾りの制作、そこから生まれた表現の広がりについてうかがいました。続く後編では、十二星座の陶板制作やマグカップに描いた宮沢賢治の詩篇のこと、そして個展に寄せた静かなメッセージまで、塩川いづみさんが見つめる大きくて身近な「12」というテーマの向こう側にある豊かな世界を紐解きます。

モチーフを探る楽しさと手触りのある緊張感

―十二支の立体制作に続き、十二星座の陶板も制作されました。どのようなアプローチで描いていかれたのでしょうか?

塩川いづみさん(以下、塩川) 最初は、絵本の挿絵のように全体で物語性のある世界観を描いてみようと考えていました。でも、実際に描き進めていくなかで、十二星座が並んだときの全体のバランスや、絵としての面白さを優先したくなり、自分がおもしろいなと思える要素を自由に切り取って探っていく形に変えました。たとえば乙女座は、少女を描くのではなく、自分で歩ける花を乙女に見立て、ダンスをしているような姿を描いています。さそり座は、心臓の位置にあるアンタレスという光る星を見せたくて、どう目立たせるかを試行錯誤しました。手描き感を活かしたり、紙版画のような風合いを出せないかと試してみたり、星座ごとにいろいろと実験させてもらいました。

―陶板への絵付けは初めてでしたか?

塩川 本格的に描くのはほぼ初めてでした。事前に下書きをして臨みましたが、いざ筆を入れる瞬間はやり直しがきかないので、独特の緊張感がありました。でも、普段展示する絵も一度描いたら消せないので、うまくいかなかったら別の紙に描き直すしかなくて、そういう意味では陶板もいつもの制作と根っこでつながっていました。思い通りにいかなかった部分や、素直に出た手癖も含めて、「これしかない」と思える魅力や手触りを感じています。

「12」という数字と日常に明滅する現象

―今回の展示タイトル「12」について教えてください。

塩川 十二支や十二星座をテーマとして制作をする中で、「12ってなんだろう」と調べてみたら、1年で12回巡る月の満ち欠けや、太陽の公転にもとづく十二星座、そして木星の周期に由来する十二支など、「12」という数字が天体の動きや宇宙の大きなサイクルに関わっていることを知りました。昔の人々が星の動きを観察して時間や暦を捉えてきたように、自分も大きな星のめぐりの中で生きているという感覚を覚えました。後付けではあるのですが、どの方が見てもどこかに自分を探せるようなすごく身近でいいテーマだなと思っています。

―「12」という探求が広がっていくなかで、制作にはどのような展開が生まれましたか?

塩川 テーマが宇宙まで飛んでいったときに、ふと宮沢賢治の『春と修羅』にある「わたくしといふ現象は」という一節が思い浮かんだんです。そこから、その一節を引用した英文を配したデザインと、自宅の庭の植物を描いた絵をマグカップに落とし込んでいきました。植物たちの中でも宇宙的な展開が繰り広げられているなと思うんです。十二支と十二星座の陶板だけでなく、そうしたプロダクトも含めて、すべてが一連の同じテーマできれいに繋がったので、展示空間で楽しんでいただけたらと思っています。

ゆだねられた余白のなかで、自分自身を見つめ直す

―今回の展示を訪れる方へメッセージをお願いします。

塩川 いらした方それぞれが自由に感じてくださったら一番嬉しいです。タイトルの「12」も、「じゅうに」でも「Twelve」でも読み方は自由ですし、あえてゆだねる余白を残しているので、思い思いに楽しんでいただけたらと思っています。私自身、最初は十二支というモチーフから制作をスタートしましたが、背景にある天体の動きを知るうちに自分たちは世界中の人と同じ時間軸や節目で生きているんだという視点へと広がっていきました。宇宙という大きな循環の中で、「私という存在もたまたま今ここで明滅しているひとつの現象なんだな」なんて感じて、クールダウンしてもらえたら嬉しいです。自分の悩みもちょっとしたことに思えて心が軽くなったり、少し広い気持ちになれたり。展示空間を通して、そんなふうに日常を優しく整えるきっかけになればと思っています。


イラストレーター
塩川いづみ

長野県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。広告、書籍、雑誌、プロダクトのイラストレーションを中心に活動するほか、作品の展示発表も行う。主な作品集に『塩川いづみ作品集 ペン、鉛筆、ひと、動物、植物』(玄光社)、『春と修羅』(torch press)、『One』(パピエラボ)がある。

HP: http://shiokawaizumi.com
Instagram: @izumishiokawa